日本学術会議法案の廃案を求めるとともに、改めて学術会議会員候補者6名の 任命拒否を是正してその正常化を図ることを求める会長声明(2025年4月21日)
日本学術会議法案の廃案を求めるとともに、改めて学術会議会員候補者6名の
任命拒否を是正してその正常化を図ることを求める会長声明
任命拒否を是正してその正常化を図ることを求める会長声明
2025年(令和7年)3月7日、内閣は、「国の特別の機関」とされている現在の日本学術会議(以下「学術会議」という。)を廃し、国から独立した法人格を有する組織としての特殊法人「日本学術会議」(以下「新法人」という。)を新設する日本学術会議法案(以下「法案」という。)を閣議決定し、現在開会中の常会に提出した。
当会が2020年(令和2年)10月12日に発した「日本学術会議の会員任命拒否を撤回し、同会議の推薦どおりに任命するよう求める会長声明」で強調したとおり、学問の生命は、真理の解明をめざす批判的な精神にある。そして、学問研究の成果は、しばしば社会生活を支える既成の価値観への批判とその破壊・革新を招き、そのため政府や社会の側からの敵対的対応を招くおそれを内包する。だからこそ、科学者の内外に対する代表機関(ナショナル・アカデミー)として科学の向上発達を図り、国民生活に科学を反映浸透させることを担う学術会議は、政府からの特に高い独立性が保障される必要がある。
とりわけ、我が国は、アジア太平洋戦争前から戦中を通じて、政治権力による弾圧や動員によって学術研究の自由が奪われた歴史的な経験を踏まえ、現行法で、学術会議の重要な使命として「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献…すること(現行法前文)」と規定している。
ところが、法案では、この前文規定が削除され(法案2条1項参照)、現行法で明示する職務の独立性(現行法3条)を、「運営における自主性及び自律性に常に配慮しなければならない(法案2条2項)」と変更して単なる配慮義務に後退させている。そして、以下のとおり、会員選定・運営・財政に関する具体的な諸規定により、学術会議の自律性・独立性を奪い、評価や人事を通じて政治的介入が可能な組織へと新法人を変質させている。
まず、会員の選定について、総会が選任する会員外の選定助言委員に、会員選定方針策定に意見を述べる権能(法案26条1項1号、31条4項)及び、候補者選定自体について会員候補者選定委員会に対して意見を述べる権能(法案26条1項2号)を付与する。会員のみで後任候補者を選考する現行方式(現行法17条)と異なり、候補者選定及び会員選定に会員以外の者が関与することにより、時々の政権や財界など、特定の利害の影響を及ぼすことが制度的に可能となる。そして、新法人発足に際して、新法人の会員予定者125人は、現行の学術会議の推薦に基づき内閣総理大臣が指名するところ(法案附則3条1項)、その会員予定者を選考する候補者推薦委員会の委員を会長が任命するためには、内閣総理大臣が指名する有識者との協議が義務付けられている(附則6条5項)。それに加えて、新法人の発足時点で任期を残している現会員は、新法人の会員となるとされるものの3年後に再任が禁じられるから(法案附則11条)、現在の学術会議との連続性が絶たれることになる。
次に、内閣による直接的な活動統制が懸念される。法案では、内閣総理大臣が会員以外の者から任命する委員で構成される日本学術会議評価委員会が内閣府に設置され、中期的な活動計画と年度計画を評価させる仕組みが新設されたが(法案42条、43条、51条)、その評価の対象は、新法人が意見を発出すること自体やその内容の是非等、学術領域に関わる事項が評価対象から除外されていない。また、内閣総理大臣が会員以外から任命する監事が、何らの範囲の限定もなく新法人の業務のすべてを監査対象とし、内閣総理大臣に意見を提出することができるとされ(法案19条、23条)、内閣総理大臣の是正措置に関する規定も設けられた(法案50条)。
財政的には、現行法が国庫負担の原則を明示しているのに対して(現行法1条3項)、法案は「必要と認める金額を補助することができる」補助金と位置付けるにとどまり(法案48条)、安定した財政基盤が確保できないおそれがある。
学術会議の自律性・独立性を後退させることは、学術会議自体からナショナル・アカデミーとしての地位と機能を奪うにとどまらず、会員以外の学術研究に関わる者の活動や意見表明に対する委縮にまで波及する危険を孕んでいる。この動きは、2020年(令和2年)10月に、従来の政府方針を反故にして、理由を明示することすらしないままに会員候補者の任命拒否を行った暴挙と軌を一にするものであって、新たに組織改変を行う理由(立法事実)を見出すことはできない。
当会は、法案の廃案を求めるとともに、改めて任命拒否にかかる6人の任期が残るうちに速やかに違法状態を解消することを要求するものである。
2025年(令和7年)4月21日
京都弁護士会
会長 池 上 哲 朗
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