京都中央郵便局建替え計画(京都プロジェクト(仮称))に対する意見書
2025年(令和7年)11月4日
京都市長 松 井 孝 治 殿
京都市都市計画局長 殿
国土交通大臣 金 子 恭 之 殿
日本郵便株式会社
代表取締役社長 小 池 信 也 殿
京都駅ビル開発株式会社
代表取締役社長 橋 本 修 男 殿
京都弁護士会
会長 池 上 哲 朗
京都中央郵便局建替え計画(京都プロジェクト(仮称))に対する意見書
意見の趣旨
1 京都中央郵便局建替え計画(京都プロジェクト(仮称))に対し、都市再生特別措置法に基づく都市再生特別地区を適用して高度地区規制31メートルを上回る高さ60メートルの建築物を認めることに反対する。
2 今般の都市計画の変更を含む都市計画の見直しを検討するにあたっては、次のとおりの手続を経るべきである。
(1)今般の都市計画の変更を含む新景観政策の強化・修正・緩和などの都市計画の見直し(微修正を除く)を検討するにあたっては、非公開の少人数での有識者委員会方式ではなく、都市計画、建築、法律、福祉、教育等の各分野の専門家及びこれまでまちづくりに取り組んできた住民・市民(団体)で構成する審議会を設置して答申を求めること
(2)都市計画の見直し(微修正を除く)にあたっては、上記答申を踏まえた上で、複数案(高さ規制の範囲内での建て替え案を含む少なくとも3案)を提示した、パブリックコメントを3ヶ月間以上の意見提出期限を確保して実施し、合わせて公聴会を開催して広く地域住民及び市民の意見を聴取し、尊重すること
(3)今般の建築計画に関しては、すでに行われている京都市環境影響評価手続につき、高さ規制の範囲内での建て替え案を含めた複数(少なくとも3案)の事業案の提示及びそれぞれの環境影響の比較検討を改めて実施すること
(4)市議会での十分な審議を経ること
意見の理由
第1 京都プロジェクト(仮称)について
事業者は、日本郵便株式会社(主たる事務所所在地:東京都千代田区大手町二丁目3番1号)、及び、京都駅ビル開発株式会社(主たる所在地:京都市下京区塩小路通烏丸西入東塩小路町614番地)である。
事業規模は、延べ面積が約119,000㎡、高さが約60mの建築物の新築事業となる。事業実施想定区域としては、京都駅前の京都市下京区東塩小路町843番地12他となる。手続実施状況については、後述する。
本意見書は、上記京都プロジェクト(仮称)(以下「本件計画」という。)について、京都における高さ規制の歴史も踏まえた、当会としての意見を表明するものである。
第2 これまでの経過
1 新景観政策とその根幹である高さ規制の変遷および駅周辺の都市政策
京都市は、2007年(平成19年)9月1日、「50年後、100年後も光り輝く京都を目指して」新景観政策を施行した。そこにおいては、建築物の高さなど建築物に対する制限を見直し、高度地区の変更(高度地区の計画書の策定)を行って思い切ったダウンゾーニングを実施し、建築物の高さ規制を厳格化(31mを限度とする地区毎のきめ細やかな高さ規制の設定)した。
同政策が導入された背景事情については、当会が発出した2007年(平成19年)2月9日付意見書に詳述されているが、50年後、100年後の京都を見据えた京都における三方の山並みや京町家の伝統的な建物との調和、世界遺産の周辺の歴史的環境と山並みへの眺望景観の保全を眼目に置いているものである。この点、当会も上記意見書において、京都を世界に誇れる歴史都市として保全・再生させるために新景観政策の不十分な点は指摘しつつも、賛意を表明した。
しかしながら、新景観政策が施行されて8年も経過しないうちに、京都市は、エコ・コンパクトな都市構造を目指すことを根拠に、交通拠点の駅周辺に都市機能を集積させるために容積率、建ぺい率、高度地区の大幅な規制緩和を図る都市計画の見直しを図ることを明らかにした。対象となる駅には今回問題となる京都駅周辺エリアも含まれていた。当会は、2015年(平成27年)3月26日付意見書において、京都市については少なくともコンパクト化を目指す社会的事実がないことを明らかにした上で旗幟鮮明に反対の立場を表明している。主要駅周辺の規制緩和を行うだけではコンパクトなまちづくりを達成できず、京都らしい町並みの保全にも寄与しない上、主要駅周辺の都市化が進むだけであることが明白であり、京都市民の多くが賛成した新景観政策とも整合しないためである。
その後も2018年(平成30年)11月15日に、京都市は新景観政策の特例許可制度の手続や規制を緩和する方針を明らかにした。当会では緊急対応として、同年12月19日付会長声明により、これに反対する旨表明した。京都市は規制緩和の目的として、オフィス・マンションの建設を促進し、子育て世代の市外流出を防ぐことを挙げたが、手段としての相当性を欠くことは明らかであったため、その旨指摘している。
このように、京都市における高さ規制を巡る近時の情勢は、当会の意見書・会長声明の流れを概覧するだけでも、新景観政策で示された50年後、100年後を見据えた都市政策よりも目先の経済的利益を追求する方向性が顕著に顕れており、抑止しなければならない。
2 都市再生特別措置法の概要及び適用の経過
(1)本件計画に利用される都市再生特別措置法(以下「特別措置法」という。)は、2002年(平成14年)、バブル崩壊後の地価下落、少子高齢化、情報化などの社会経済の変化に対応し、都市の国際競争力や防災機能を高めるために、民間の活力を活用して都市再生を円滑に進めることを目的として制定された。
同法は都市再生緊急整備地域の指定により、市開発事業を通じて市街地の整備を緊急かつ重点的に推進すべき地域として政令で指定し、これにより法制上・財政上・金融上の支援措置が適用するものである。
都市再生緊急整備地域に指定された地域においては、以下のような都市計画上の特例措置が行われる。
ア 都市再生特別地区
都市再生緊急整備地域のうち、都市の再生に貢献し、土地の合理的かつ健全な高度利用を図る特別の用途、容積、高さ、配列等の建築物の建築を誘導する必要があると認められる区域については、都市計画に、都市再生特別地区を定めることができ(法36条1項)、同地区においては、既存の用途地域に基づく規制(容積率、高さ等)にとらわれず、自由度の高い計画を定めることで規制緩和が可能とされる。
イ 都市計画の提案制度
都市再生事業者が、都市計画を提案することができる(法37条1項)。提案が行われた場合には、都市計画提案された日から6箇月以内において都市計画決定の可否の判断が行われ(法41条1項)、通常の都市計画決定に比べて迅速な手続がとられる。
(2)本件では、2012年(平成24年)10月25日、「京都駅周辺地域」として、都市再生緊急整備地域に指定された。その後、2013年(平成25年)7月、2015年(平成27年)7月に対象地域が拡大され、2024年(令和6年)12月には「京都南部油小路沿道地域」と統合され、「京都駅周辺・京都南部油小路沿道地域」として現在指定されている。
本件計画は、都市再生緊急整備地域内の事業として計画されており、京都市民に対して、市民的な議論がなされるために必要かつ十分な周知が行われないまま、2021年(令和3年)11月から、「京都市土地利用の調整に係るまちづくりに関する条例」(以下「まちづくり条例」という)に基づく手続や、京都市環境影響評価条例に基づくアセスメントの手続が現在まで進められている。なお、本件計画は、2009年(平成21年)の京都市環境影響評価条例の施行以来、第1類事業として、同条例の適用を初めて受けた事業である。
まちづくり条例に関しては、同条例7条に基づき、本件計画の開発構想が同年11月26日から12月9日まで縦覧され、同年11月26日から同年12月16日までの意見書提出期限が設けられた。その後、2021年(令和3年)12月4日、同条例に基づく説明会が開催された。
また、環境影響評価手続の経過は以下のとおりである。
A 環境配慮書案(2021年(令和3年)11月22日提出)
縦覧期間(同年11月26日~12月27日)
意見書(提出期限は同年12月27日、件数6件)
審査会(諮問:同年12月24日 答申:2022年(令和4年)3月8日)
環境影響配慮書(同年7月20日提出)
配慮書縦覧期間(同年7月29日~8月29日)
B 環境影響方法書(同年10月21日提出)
方法書縦覧期間(同年10月28日~11月28日)
意見書(提出期限は同年12月12日、件数0件)
審査会(諮問:同年12月13日 答申:2023年(令和5年)2月3日)
C 環境影響評価準備書(2024年(令和6年)11月7日提出、条例25条)
準備書縦覧期間(同年11月13日~同年12月12日)
意見書(提出期限は同年12月26日、件数2件)
公聴会(2025年(令和7年)1月26日開催、公述人1人)
審査会(諮問:2024年(令和6年)12月17日 審議:2025年(令和7年)2月26日 答申:同年4月8日)
D 環境影響評価書(同年7月30日提出)
評価書縦覧期間(同年8月7日~9月8日)
(3)今後予定されている手続
①事業者による都市計画提案(特別措置法37条)
都市再生特別地区の都市計画素案を提出。
②都市計画決定手続
公聴会、都市計画審議会など
第3 実体的問題
1 新景観政策に明らかに背馳すること
(1)2007年(平成19年)9月に施行された新景観政策では、盆地都市であり、歴史都市・文化都市である京都市において、三方の山並みや寺社仏閣・京町家等の伝統的な建物との調和を図るために、田の字地区の高さ制限を45mから31mに引き下げて高度地区の上限とし、職住共存地区の高さ制限を31mから15mに引き下げることを含めた市街地全域での高さ規制の見直し(引き下げ)がおこなわれた。
当会は、同年2月9日、新景観政策の素案に対し、下記のとおりの趣旨の意見書を公表している(意見書の理由については、京都弁護士会ホームページ参照)。
記
「1 京都市新景観政策の素案における高さ規制やデザイン規制の強化等の基本方向に賛成する。
2 しかしながら、素案は、京都市全域を対象とするものではなく、容積率の引き下げを伴っていないこと、高さ制限の例外許可制度を盛り込んでいる等の不十分な点や問題点がある。
3 例外許可制度を除き、新景観政策を速やかに実施に移すとともに、これらの不十分な点や問題点については、十分な市民参加の手続きのもとに見直しをすべきである。
4 今後、より一層の住民参加のもとに、地区毎の詳細な景観保存再生計画を策定すべきである。
5 新景観政策によって発生する既存不適格建物、とりわけ区分所有によるマンションの建て替えに際しての公的支援策(解体費用の助成等)の拡充を図るべきである。」
(2)近時、主として郊外部や京都駅を含む駅周辺の規制緩和(高さ、容積率の緩和)が相次いで行われてきたが、本件計画は、特別措置法に基づく都市再生特別地区を京都市内で初めて適用して高度地区規制の最高限度31メートルの約2倍に達する高さ60メートル(京都ホテル、京都駅ビルと同じ。なお、東寺の五重塔は55メートル)の建築計画であり、これまでの規制緩和とも明らかに次元を異にする。
そもそも、新景観政策以前の1990年代には、京都市内の歴史的市街地における60m超高層建築物として、総合設計制度を適用した京都ホテルと、特定街区制度を適用した京都駅ビルが建設されたが、新景観政策においては、これらの制度を利用して高さ制限(最高31m)を上回る建築物を許容することは想定されていない。
(3)また、本件計画は、新景観政策における高さ規制の特例許可制度を適用することが予定されていない。これは、特例許可要件を満たさない建築計画であるためと思料される。以下に、新景観政策における高さ規制の特例許可の仕組みや変遷を概観し、本件計画は同制度の適用外の建築計画であることを述べる。
新景観政策において、地域の良好な景観の形成や周囲の市街地に支障がないものとして市長が許可した建築物については、建築物の高さの最高限度を超えることができるものとする特例許可制度が設けられた。この制度により、建築物単位で、建築の合理性・必要性が認められる場合にのみ、例外的に高さ規制を緩和することとし、これに適合する場合にのみ、特定の建築物に対して、高さ制限や容積率制限などの規制を緩和することを可能とした。この例外許可では、①優れたデザインの建築物であること、②学校、病院など、公共、公益上必要な施設で、景観に配慮し、機能の確保を図るうえで必要な建築物が対象とされた。
その後、京都市は、2018年(平成30年)11月15日に特例許可制度を変更して、市長による認定制度に移行させ、特例許可に必要な景観審査会の審査を省略するなど手続を緩和させた上で、一部地域で建物の高さ規制を3mから11mの範囲で緩和する方針を打ち出した。これに対して、当会が反対する会長声明(同年12月19日付)を発したことはすでに述べたとおりである。
さらに京都市は、2021年(令和3年)4月7日、これまでのものに加え、③当該地域の良好な景観形成及びまちづくりの推進に貢献する建築物、④良好な沿道景観の形成に資するものであれば、民間の事業者が建築するものも対象とするなどの拡大を行った。これについても、当会は先立つ2020年(令和2年)11月26日付で、特例許可制度の趣旨からすれば、その対象は必要最小限のものでなければならないところ、それが守られていないことを指摘するなどの意見を発している。
既に過剰状態にある民間のホテル計画や商業施設設置のための高層化は、上述した【公共、公益上の必要性】を満たすとは考えられず、また【景観上優れた形態・意匠を持つ建築物】等にも当たらない。本件計画もそれゆえに、特例許可制度の適用が予定されなかったものと考えられるところ、それにもかかわらず他の法令を適用して、新景観政策の高さ規制を超える建築物を建てようとするものである。
(4)すなわち、本件計画は、特例許可の審査を得なければ高さ規制の例外が許容されない特定の建築物のために、新景観政策を脱法する手段として、これまで京都では使われてこなかった特別措置法を使って、新景観政策の根本であり、盆地都市京都のまちなみ、山並みを保全する根幹としての高さ規制の意義をほとんど無意味にしてしまう計画である。
このような計画を認めてしまうと、同様のホテルや商業施設のために、新景観政策による高さ規制を無視した高層建築物の乱立を制度的にも防ぐことができなくなってしまう。
よって、特別措置法を使って、高さ規制を緩和することには、反対である。
2 特別措置法を京都に適用すべきでないこと
特別措置法は、第一次小泉内閣のもとで、2002年(平成14年)4月、都市機能の高度化と都市の居住環境の向上(この両者をあわせて「都市の再生」とよんでいる)を図るために、都市再生緊急整備地域(以下「緊急整備地域」という。)における都市計画の特例等の特別の措置を構じることなどを目的として制定された法律であるが、この法律制定の中心的な目的は都市機能の高度化を図るために都市計画の特例を設けることにあることはいうまでのないところである。
一方、現行の都市計画法は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的としたものであり、同法のもとで、都市計画は「健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるもの」(同法2条)とされているが、上述した特別措置法の制定により、健康で文化的な都市生活の確保という都市計画の基本理念が根本から没却されるのではないかと強く危惧されるところである。この特別措置法にもとづく緊急整備地域に指定された東京都心などには、都市計画の特例を用いて超高層ビルが立ち並ぶことになったことは周知のとおりである。
しかし、京都市は憲法95条に定められた地方自治特別法として、住民投票を経て制定された京都国際文化観光都市建設法(昭和25年法律第251号)にもとづく国際文化観光都市であり、その後、1966年(昭和41年)に制定された「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」において日本の「古都」に指定され、1994年(平成6年)には、17の社寺城によって構成されている「古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)」がユネスコの世界文化遺産として登録され、この登録にあたって京都市がユネスコに提出した文書には、京都駅周辺を含む東寺と西本願寺などの世界遺産の登録対象資産を結ぶ市街地の多くの地域が「歴史的環境調整区域」に位置づけられ、世界遺産の「緩衝地帯」(バッファゾーン)だけではなく、市街地全域の歴史的環境の保全を図るためのさまざまな規制が実施されている。
このように、日本の古都であり、国際文化観光都市として位置づけられ、ユネスコの世界文化遺産に登録された、多くの歴史的建造物など貴重な文化遺産を有する京都市において、特別措置法を適用して緊急整備地域の指定を行うことは、著しくその整合性に欠けるものと言わなければならない。
さらに、特別措置法が制定された後の2007年(平成19年)に、京都市が新景観政策を策定し、高さ規制の上限を31mとしていることからしても、新景観政策に背馳する形で特別措置法を京都市において適用することは著しく整合性を欠くものである。
こうしたことからいえば、京都駅周辺地域などを緊急整備地域に指定した上、都市再生特別地区に定めて、都市計画の特例として高層建築を容認することについては、その妥当性に根本的な疑問をもたざるをえないものである。
3 特別措置法の適用要件を満たしていないこと
特別措置法は、第1条の目的に「都市機能の高度化及び都市の居住環境の向上(以下「都市の再生」という。)」を掲げており、そこでは「都市の居住環境の向上」が「都市の再生」にとって不可欠であることが位置づけられている。
また、同法36条1項は、都市再生特別地区を定めるにあたって、「都市の再生に貢献し、土地の合理的かつ健全な高度利用を図る」ことが必要であると認められることを要求している。
そうすると、本件計画については、その前提として「都市の再生」、すなわち都市機能の高度化だけではなく、都市の居住環境の向上に如何なる貢献をするのかが問われる必要があり、その上で、「土地の合理的かつ健全な高度利用」を図ることが求められている。しかし、本件計画が都市の居住環境の向上を含めて「都市の再生」にどのような貢献をするのか、またそれがはたして合理的かつ健全な高度利用といえるかが根本から問われる必要がある。特に、上層階にホテルを配置することを目的とした本件計画は、ホテル過剰供給による市民生活への影響が深刻に懸念されている状況のもとでは、「都市の居住環境の向上」に資することはおよそ想定できないといっても過言ではない。そうすると、本件計画は、上述した法律の規定にはおよそ適合しておらず、根本的な再検討が必要であるといわなければならない。
第4 手続的問題
1 市民への周知、説明の欠如
本件計画は、「(仮称)京都プロジェクト」と称されて、2001年(平成13年)の段階で京都市まちづくり条例に基づく説明会や意見書提出の機会が事業者により設けられたが、これは大規模商業施設により交通や住環境等の影響を受ける近隣住民が対象の手続きであった。その後施行された新景観政策との整合性や建築物の必要性・公共性などについて、広く市民に周知・説明したうえ、公聴会や意見書の提出と応答などを含む丁寧な合意形成手続きがこれまでのところ図られた形跡はない。
2007年(平成19年)に施行された新景観政策の策定過程では、関係各分野の委員からなる審議会(2005年(平成17年)7月設置)方式で長期間の検討がなされ、審議過程において3回のシンポジウム(2006年(平成18年)2月)や中間とりまとめ(同年3月)での意見募集も行われたうえ、2006年(平成18年)11月の最終答申、パブコメに至り、更には行政区ごとの公聴会等での意見聴取及び市議会での審議・議決手続も行われており、京都新聞の世論調査においても約80%の賛同が得られていた。
本件計画は、上述した通り、新景観政策を根本的に変更するようなものであるから、手続的にも、上記新景観政策策定時と同等の手続きをふまえることが必要である。
なお、日本の都市計画法において採用されているわけではないが、欧米では、市議会での審議・議決手続きが一般的であり、それが市民への周知と市民参加の当然のプロセスとされている。したがって、本件計画のように新たな景観政策に反する重大な案件について、このような手続きを経ることなく遂行することは、認められるべきではない。市民への周知及び市民参加の当然のプロセスとされていることが一般的であり、本件計画のような新景観政策に背馳する重大な案件であることに鑑み、このような手続きさえなされずに本件計画を遂行することは、認めるべきではない。
2 京都市環境影響評価条例の手続きをめぐる問題
本件計画は、京都市環境影響評価条例(以下「アセスメント条例」という。)の制定後、第1類事業としての初の条例適用事例である。
これに基づく配慮書手続きでは複数案の提示が求められているところ、事業を実施しない案(ゼロオプション)については、【当該事業を実施しない案の検討は現実的ではないため複数案設定は行いません】としているが、不適切である。
地域の高さ制限は31mであること、京都市においては新景観政策(2007年)により高さ31mを超える建築物の新築は(先述の特例許可の例外は別として)許容されていないことより、高さ規制の範囲内での建築案の設定が必要である。
ところが、配慮書では、A案で高さ規制の1.5倍の約45m、B、C案は約2倍の60mと、いずれも都市計画・建築規制を無視した案となっており、許容できない。
この原因は、郵便局とバスターミナルの建て替えにとどまらず、上層階には大規模ホテルを、1,2階には商業施設を入れることを前提とした床面積をつめこもうとしているために、A案では地下約30mにもなり、掘削工事上の問題を発生させることになっている。
従って、ホテルと商業施設を除外した現在の使用状況を前提とした高さ31mの範囲内での建築案並びに商業施設を入れるとしてもホテルを除外した高さ31mの建築案を改めて示したうえ、アセスメントをやり直すべきである。
しかも、アセスメント手続きは市民にはほとんど周知されないまま進行したため、方法書への意見提出者はなく、昨年(2024年)11月には準備書が作成されたが、公述人募集段階ではHPからも準備書(概要)は削除されていたため、市民の知り得るところとはならず、公述人は強い反対を表明した近隣住民1名にとどまった。本年(2025年)1月に準備書に対する公聴会が行われたが、参加者には準備書(概要)のコピーさえ配布されず、参加者は資料が無いままで的確な意見を表明することも困難であった。加えて、事業の名称が京都中央郵便局の建替え・高層化計画ではなく、京都プロジェクト(仮称)と表題からは事業計画の内容を読み取れないため、より市民の関心を得にくいものとなっている。
3 結語
本件計画は、京都市アセスメント条例に基づく第1類事業に対する初の適用事案であり、京都市は市民参加推進条例を制定しており、情報の提供及び公開を推進する役割があることを踏まえると、今後のアセスメント手続きの先例にすべき事案である。それにもかかわらず、情報の提供及び公開が不十分なままで本計画のアセスメント手続きをこのまま終結させることはアセスメント条例の形骸化をもたらすもので、不適切である。改めて、高さ規制の範囲内での建築案も示したうえ配慮書段階からアセスメントをやり直すべきである。
以上
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