低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと 地域間格差の是正、実効的な中小企業支援を求める会長声明(2025年6月13日)


低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと
地域間格差の是正、実効的な中小企業支援を求める会長声明



  1  ロシアのウクライナ侵攻などに起因する燃料・資源価格の高騰や続く円安による輸入コストの増加の影響で、食料品や光熱費など生活関連品の価格は上昇を続けている。総務省が公表する消費者物価指数によれば、2020年(令和2年)を100としたときの2025年(令和7年)3月の消費者物価指数(総合)は111.1であり、前年同月比でも3.6%増とされている。「食料費」の指数は124.2、前年同月比は7.4%増であり、生鮮食品はそれぞれ134.0、13.9%であるように、特に食に関する物価上昇が顕著である。このような物価上昇も背景として実質賃金は2022年から3年連続で低下しており、食に関する物価の顕著な上昇と実質賃金の下落は、家計に占めるその割合が大きい低所得世帯に対しては相対的により大きな影響がでていることを推認させる。
京都地方最低賃金審議会は、昨年8月に、当時の最低賃金額時給1008円から50円引き上げて時給1058円に改正することが適当であるとの答申を行い、同年10月より最低賃金は同額に引き上げられた。上記引上額は過去最大であり評価できるものの、消費者物価指数の上昇を加味すれば、最低賃金水準で働く労働者の生活が豊かになったと評価することはできない。消費者物価指数の稀な上昇を記録し実質賃金が低下し続けている今日において、最低賃金もこれに対応して増額されなければならない。

2  また、最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正されていないことも重大な問題である。2024年(令和6年)の最低賃金は、最も高い東京都で時給1163円であるのに対し、最も低い秋田県では時給951円であり、その間には212円もの開きがある。この格差は10年来全く是正されていない。
その地域の最低賃金の高低と人口の増減には強い相関関係があり、最低賃金の格差は、最低賃金が低い地域の人口減ひいては経済停滞の要因ともなっている。都市部への労働力の集中を緩和し、他の地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化のみならず、都市部への一極集中から来る様々なリスクを分散する上でも極めて有効である。この点で、昨年度徳島県において中央最低賃金審議会が示した前年比50円という引上額を大幅に上回る84円の引上げが行われたことは注目されるべきである。これにより、徳島県は前年度四国内で最も最低賃金が低かったが、最も高くなったのである。
ところで、地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都市部と地方の間でほとんど差がないという分析がなされている。これは、都市部以外の地域では、都市部に比べて住居費が低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限され、通勤その他の社会生活を営むために自動車の保有を余儀なくされることが背景にある。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されない。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。

3  最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度による支援を実施している。しかし、その支援は未だ十分とは言い難く、日本の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行うことができるよう十分な支援策を講じることが必要である。例えば、社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減すること、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制することなどの支援策も有効であると考えられる。

4  最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果がある。当会は、引き続き国に対し中小企業への十分な支援策を求めるとともに、中央最低賃金審議会が、本年度、地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金を大幅に引き上げるよう答申すべきこと及び全国一律最低賃金制度の実施に向けた提言をなすことを求めるものである。
そしてそれらを踏まえつつ、京都地方最低賃金審議会において最低賃金額の大幅な引上げを行い、もって労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すことを求めるものである。


      2025年(令和7年)6月13日

京都弁護士会                      

会長  池  上  哲  朗
      


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